COLUMNタクウィルコラム

【連載第四弾】なぜあなたの製品は選ばれないのか

かなり前ですが、「ハーバード・ビジネス・レビュー」の2012年12月号に掲載された「ソリューション営業は終わった」という衝撃的な記事をご存知でしょうか。

現代のB2B取引において、顧客はもはや自社の課題に対する解決策を探して四苦八苦しているわけではありません。むしろ、複雑化した購買プロセスの中で、意思決定そのものが困難になっています。そのことを、書籍「隠れたキーマンを探せ」では明確に表現しています。英語では、この状況をチャレンジャー・カスタマーと呼んでいます。

実際、B2B取引における購買決定に関わる平均人数は5.4名にも及びます。この購買グループは、それぞれが異なる情報源から情報を収集し、意見の対立を解消する必要があります。

少し前に起きた、本田技研工業と日産自動車の統合のゴタゴタが、最たる例だと私は思います。結局、意思決定できない。Gartner社の調査によると、B2Bバイヤーの77%が、直近の購入が「非常に複雑で困難だった」と回答しています。この多数決の状況が、かえって購入を難しくしているのです。今回の記事では、このような近年の状況で、マーケティングが取り組むべきことを記載します。

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この記事の監修者

北川 裕康
北川 裕康
AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。

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57%の壁:顧客の検討プロセスの「手前」に立つ

多くのサプライヤーは、顧客がすでに製品やサービスを比較検討している「57%」の進捗度合いの段階で初めて接触します。しかし、この時点では既に候補リストが作成されており、90%のケースでそのリストの中から購入が決まります。

要するに競合に巻き込まれるのです。しかし、多くのマーケティングは、この時期を狙ってリードジェネレーションを行い、リード獲得に必死になっています。

顧客が「デューデリジェンス」(適正評価)を始める前に、いかに自社の存在感を高めるかが極めて重要になります。ここでカギとなるのが、私が命名したチャレンジャー・マーケティングという新しいアプローチです。

製品説明はもう通用しない:「インサイト」を武器に顧客に挑む

このように顧客が変化しているのに、マーケティングはいままで通りのことをやっていてはパフォーマンスがでません。多くの企業のマーケティングは、「うちの製品は本当に男前で、高学歴で、いけているのです」と説明しています。

私は、このことを、「ラーメン、つけ麺、僕イケメン」状態と言っています。そんな人、普通にデートしたくないですよね 苦笑

チャレンジャー・マーケティングでは、単に製品の優れた点を説明するのではなく、顧客自身が気づいていない潜在的な課題、つまりインサイトを提供することから始めます。それも刺激なインサイトです。これを実現するのが、SICモデルです。SICには、次のように3つの英語の頭文字からきています。

人は「現在の不健康な生活を続けていると、命の危険がある」と言われても、生活習慣を変えるのは7人に1人しかいない、という調査結果があります。最近、タバコを吸う人にこの話をすると、よくわかると言われました。

このように、人や組織は簡単には変わりません。だからこそ、このSICモデルを通じて、強烈な刺激を顧客の心に与える(刺す)必要があるのです。

チャレンジャー・マーケティングを実践するための具体的な方法

この新しいアプローチを組織に浸透させるためには、マーケティングとセールスの役割を再定義する必要があります。

マーケティング:Thought Leadershipでリードを育成する 

従来のリードジェネレーションは、顧客の課題が顕在化した後に始まります。しかし、チャレンジャー・マーケティングでは、顧客の予算策定前の段階から、Thought Leadership(思考のリーダーシップ)を発揮し、顧客の「変わるべき理由」を提示するコンテンツを提供します。

それに伴い、リード・スコアリングの進化とリード・ナーチャリングの深化が不可欠です。

リード・スコアリングの進化では、 単なる活動や役職によるスコアではなく、どのSICコンテンツにアクセスしたかを重視してスコアリングします。コンテンツは大量に作る必要はなく、絞った良質なコンテンツのみで十分です。

リード・ナーチャリングの深化では、MA(マーケティング・オートメーション)を活用し、顧客がSparkコンテンツを閲覧したらIntroduceコンテンツを、Introduceを閲覧したらConfrontコンテンツを、というように自動でメール案内をすることで、段階的にインサイトを提供します。

セールス:プロジェクト型セールスへ移行する 

営業のゴールは、製品を売ることではなく、変革のためのプロジェクトが発足することになります。顧客のチェンジマネジメントに関わり、プロジェクトの開始から定着、成功までをサポートするプロジェクト型セールスの考え方が重要です。

カスタマサクセスとの連携も不可欠です。私は、書籍「エンタープライズセールス 大企業担当の営業組織が成果を出し続けるためのバイブル」がとても参考になります。

また、購買プロセスの初期段階で、影響力を持つゴーゲッターやティーチャーといった人物を特定し、関係を築くことが成功の鍵となります。ゴーゲッターは、他者のよいアイデアを支持し、つねに求められる以上の成果を出すタイプの人です。

ティーチャーは、新しい知見を教える同僚や幹部から意見を求められる、他者の説得がうまいタイプの人です。このようなタイプの方のコンタクト獲得は、なかなか厄介です。顧問サービスなどをうまく使うのも、手だと考えます。

まとめ

情報過多で意思決定が困難な現代において、従来の課題解決型のソリューション営業や製品説明型マーケティングは限界を迎えています。チャレンジャー・マーケティングは、プロジェクト型セールスと連携して、顧客の購買プロセスに先んじてインサイトを提供し、自らを変革するきっかけを与えることで、顧客との新しい関係性を築く戦略です。

このアプローチを導入することで、競合に埋もれることなく、顧客の真のパートナーとして、持続的な成長を実現することができるでしょう。簡単ではないですがね。

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北川 裕康
北川 裕康
AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。

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