COLUMNタクウィルコラム

【連載第三弾】テクノロジー・イネーブルドABM

なぜそのABMは成果が出ないのか?世界基準のテクノロジー・イネーブルドABMを読み解く

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を始めよう!そう意気込んでみたものの、結局はターゲットリストにある企業にひたすらコールドコールをかける日々…そんな風になっていませんか?欧米では、本格的なABMが進捗して、コールドコールは死んだと言う人までがいます(まだやっていますが)。

確かに、特定の企業に絞ってアプローチするのはABMの基本です。しかし、それだけで本当に成果は出るのでしょうか? 私は長年この業界を見てきましたが、多くの企業やベンダーがABMの本質を見失っていると感じています。インサイドセールス会社の特定企業へのコールドコールをABMと呼んでいる場合もありますね。

今回は、私がいつもお伝えしている世界基準のテクノロジー・イネーブルドABMについて、その本質と、なぜ今これが重要なのかを紐解いていきたいと思います。

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この記事の監修者

北川 裕康
北川 裕康
AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。

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ABMはなぜ今、進化しているのか?

ABMは新しい概念ではありません。2000年代初頭から、特定の顧客に個別の提案をするOne to Oneマーケティングとして存在していました。しかし、当時は人力に頼るアナログなアプローチが主流でした。

Cisco Systemsにいたときは、特定の企業向けにカスタタマイズしたマーケティングを実践していました。なぜなら、その企業の売上金額が以上に大きかったからです。私は、個別企業へのアナログなアプローチは有効で、契約拡大やクロスセルの促進のために、いまだにOne to Oneマーケティングを実践しています。

それが2010年代に入り、マーケティングオートメーション(MA)やCRMツールといったテクノロジーの進化によって、より効率的に、そして大規模に、ABMが展開できるようになりました。

さらに近年では、インテント(購買意欲)を獲得するサービス、企業ことにパーソナライズ可能なWebページを提供するサービス、企業ごとのテクノロジーや製品ごとのIT投資を統計的に提供するサービスなどによって、ABMが加速しました。

これによって、マーケティングのトレンドが、広告などによるアウトバンド、SNSやSEOによるインバウンド、そして、新しいアウトバンドとしてABMに移り変わっています。現在は、これらをミックスすることが求められています。

データ分析やAIの力で、ABMはさらに進化を遂げています。MAやCRMを含めたマーケティングサービスが、各社競うように、AI機能の拡充を図っています。例えば、コンタクト情報に、生成AIで企業情報を自動的に追加することが可能になっています。また、問合のためのAIエージェントは、普通になってきています。

私は、近代のABMを、テクノロジー・イネーブルドABMと呼んでいます。テクノロジーでスケーラブルにターゲットとなるアカウントにマーケティングするからです。これによって、 従来の営業主導だったABMが、データに基づいたより戦略的なアプローチへと変わったのです。

この進化の背景には、大きく分けて4つの理由があります。

MarTech(マーケティングテクノロジー)の進歩:

テクノロジーの進化により、数十社、数百社といった特定のセグメントの企業に、スケーラブルにパーソナライズされたアプローチが可能になりました。

Go-to-Market(GTM)戦略の浸透:

セグメントとしての面と、それ構成する狙うべき点=企業に、リソースを集中投下する戦略が重要視されるようになりました。私はこれをセグメンテーション&フラグメンテーション戦略ともいっています。

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サブスクビジネスにおけるLTV(顧客生涯価値)最大化の重要性:

新規顧客獲得だけでなく、既存顧客からの収益拡大や解約防止が経営課題となったからです。

データ活用の進展:

顧客のデジタル行動データをリアルタイムで分析し、エンゲージメントを高めることが可能になりました。

国内のABMに足りないGTM戦略という視点

このテクノロジー・イネーブルドABMを成功させるには、単にツールを導入するだけでは不十分です。大事なのは、GTM戦略にABMをしっかり紐づけることです。GTM戦略とは、製品やサービスをどの市場の、誰に、どのように届けるかを決める戦略です。経営層が関与し、収益やLTVといったKGI(重要事業指標)に直結する重要なプロセスです。

このGTM戦略の中心にあるのが、先ほど述べたセグメンテーション&フラグメンテーションです。

セグメンテーションとは、市場を細分化し、勝てるセグメントを明確にすることです。リソースを集中投下し、競合を圧倒する局地戦を展開するための考え方です。広域戦で勝てればそれに越したことがないのですが、膨大なリソース(=兵力)が必要になります。

フラグメンテーションとは、セグメント内の企業(アカウント)に優先順位をつけ、個別の攻略法を決めることです。案件がすでにある「Aランク」、BDRがアウトバウンドで開拓する「Bランク」、マーケティングが主に担当する「Cランク」、そしてアプローチしない「Dランク」といった具合に、セグメント内のアカウントを優先順位で分けます。ABMのターゲットは、このフラグメンテーションの考え方に基づいて選定されます。個へのアプローチです。

欧米ではこの考え方が浸透して、ABMの普及に拍車がかかった印象です。

課題を乗り越え、テクノロジー武装で顧客に深く刺さる

日本でABMを実践する上での大きな課題は、良質なインテントの獲得とコンタクト情報の入手です。

多くの企業が、特定の製品名で検索している顧客を追いかけてしまいがちですが、これでは競合との消耗戦になります。なぜなら、その段階では顧客の購買プロセスの57%はすでに終わっているからです。大事なのは、顧客の課題やニーズをベースにしたインテントを捉えることです。

また、日本では米国のように簡単にコンタクト情報が手に入りません。海外ではソーシャルセリングと呼ばれるLinkedIn Sales Navigatorを使ったIn-Mailでの連絡も日本ではうまくワークしないです。そのため、インテント情報を取得しても、結局はコールドコールに頼ることになります。ですから、インテントサービスを試してみても、継続して活用しない企業が多くみられます。なかなか、やっかいな国です。

結局は、インサイドセールスでアウトバウンドを実施するBDRチームのスキル向上が鍵だと考えます。このため、BDRチームをテクノロジーで武装するのです。例えば、キャンペーンに合わせたワークフローの設定ができるBDRの自動化ツールの導入。音声AI解説を活用したトークの質の向上。また、ターゲット選定とリサーチの強化のためターゲットとなるコンタクトに関するデータ分析の提供などです。これによって、アウトバウンドの効率化、人的なアプローチの質向上と、顧客の心に響く問題解決型のメッセージを作り上げます。地味な努力ですが、磨けば武器になります。

余談ですが、私が顧問をしている顧問派遣会社の顧問人材を使ったアプローチもありです。その仕事をするまで、顧問は営業の仕事と考えていましたが、あれ?マーケティング、特にABMで使えるじゃないと気付きました。テクノロジーではないですが。

ABMは単なるマーケティング手法ではなく、データとテクノロジーを駆使して、営業とマーケティングが連携し、顧客との長期的な関係を構築するGTM戦略そのものです。 ぜひ、皆さんの職場で、この考え方のもと、ABMを実践していただけたら嬉しいです。

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北川 裕康
北川 裕康
AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。

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