【連載第二弾】Go-to-Market戦略の教科書:世界で通用する勝ち筋を徹底解説

今回は、実践や新しい知識獲得したので、Go-to-Market(GTM)戦略の立案方法をアップデートしたいと思います。
企業が製品やサービスを市場に投入し、ターゲット顧客に届けるための戦略とプロセスを、Go-to-Market(GTM)戦略と呼びます。GTM戦略は単なる戦術ではなく、収益やLTV(Life Time Value)といったKGI(Key Goal Indicators)に直結する重要な経営戦略です。
そもそも戦略とは、収益アップおよびコスト削減の目的を実現するために、最優先事項へリソースを集中投下することです。よく戦略という言葉が使われますが、この目的がないことは戦略とは言えません。
GTM戦略を構築する目的は、短期的な成果と中期的な基盤作りの両方にあります。短期的な目的としては、マーケティング・キャンペーンの質向上やセールス・アプローチの強化を通じて、パイプラインの増強と新規商談の獲得を目指します。一方、中期的には、製品の差別化を磨き、顧客の成功を仕組み化することで、持続的な成長の基盤を築くことを目指します。
効果的なGTM戦略を構築することで、特定のセグメントでの市場シェアの拡大、データに基づいたオペレーションの実践、そしてコンバージョン率の向上による生産性向上といった効果が期待できます。
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この記事の監修者

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AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。
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戦略の核心:「やらない」を決める
GTM戦略において最も重要なことの一つは、「やる(Go)」だけでなく、「やらない(Do Not Go)」を徹底的に決めることです。これは、限られたリソースを最大限に活用するために不可欠な考え方です。
「やる(Go)」を決めることが多いと思います。しかし、「やらない(Do Not Go)」を明確化することで、戦略が際立ってきます。
例えば、日本の自動車メーカーであるスズキは、北米や中国といった巨大市場では勝負せず、インドやアフリカといった特定の市場に集中する戦略をとっています。これはまさに、やらないことを決めることで、強豪がひしめく市場での消耗戦を避け、リソースを最も効果的な場所に集中させる典型的な例です。
私が以前勤めていたERPベンダーは、「やらない(Do Not Go)」セグメントに案件ができそうになっても、絶対やらないというガイドラインになっています。当時は、もったいないと思ったものです。
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製品の成熟度と市場シェアに応じた戦略
GTM戦略は、すべての製品に一律に適用できるものではありません。製品の成熟度によってゴールや戦略を分ける必要があります。
- Emerging(登場したて)製品: まだ市場に浸透していない段階。キャズム(CHASM:大きな溝)を超える前であり、新規顧客の獲得や事例作りが主なゴールになります。私は、製品主体のGTMと呼んでいます。
- Core(主力)製品: 市場の主戦力となっている段階。キャズムを超え、マジョリティ層を獲得するフェーズであり、売上やクロスセルの増加が目標となります。キャズムの手前ぐらいから始めて、一気にキャズムを超えます。ここは、セールス&マーケティングGTMです。
また、競合との市場シェアの順位によっても戦略は変わります。
- 直上位との戦い: 差別化戦略を徹底し、独自の価値で優位性を築きます。
- 直下位との戦い: マッチング戦略で、競合の差別化を打ち消すことで対抗します。
弱者が強者に勝つための「ランチェスター戦略」を取り入れる
GTM戦略のベースにある考え方の一つに、ランチェスター戦略があります。これはもともと第一次世界大戦の戦闘理論から生まれたもので、日本では「弱者が強者に勝つための戦略」として知られています。
この戦略のポイントは、広域戦を避け、局地戦に持ち込むことです。広範囲にリソースを分散させる「広域戦」では、兵力(リソース×武器効率の2乗)の差が勝敗を分けますが、特定の領域に絞る「局地戦」では、兵力(リソース×武器効率)の差が直接影響します。勝てる「局地戦」にリソースを集中投下して、そのセグメントで市場No.1を獲得するのです。ランチェスター戦略では、40%の市場シェア獲得を目指せと言っています。
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セグメンテーションとフラグメンテーションの重要性
ランチェスター戦略を実践するために不可欠なのが、セグメンテーションとフラグメンテーションです。
セグメンテーション(Territory)
まずは市場戦略です。どのセグメントに製品を投下するか、機能やサービスで差別化を際立たせるかを決めます。
これは、市場全体をいくつかのセグメントに分け、勝てる特定のセグメントにリソースを集中させるプロセスです。最近多いのは、ファームグラフィックという方法で、要するに会社の属性(規模、所在地、業種など)で、セグメンテーションします。それでは済まない場合も多いです。
勝てるセグメントを評価する際には、市場規模(Realistic Scale)、成長性(Rate of Growth)、競合状況(Rival)など、6Rと呼ばれる指標の利用が有効です。それ以外に、どれだけパイプラインがあるかも確認します。「やらない(Do Not Go)」セグメントも明確にして、「やらない(Do Not Go)」は、積極的に行く(Proactive)と案件が来たら行く(Reactive)に分類します。このセグメンテーションによって、営業担当者のテリトリー(担当領域)が決まります。
フラグメンテーション(Account Prioritization)
セグメントを特定したら、次にそのセグメント内の顧客を一つひとつのアカウントに分解します。そして、個々の顧客に対するアプローチの優先順位と作戦を決めます。
アカウントの優先順位付けは、以下のように分類されます。
- A: 案件がすでにあり、営業が自らパイプラインを構築する顧客
- B: BDR(Business Development Representative)がアウトバウンドでパイプラインを作成する顧客
- C: 主にマーケティングがターゲットとする顧客
- D: 競合が強く、「やらない(Do Not Go)」顧客
このフラグメンテーションの考え方は、Account Based Marketing(ABM)の基盤となります。ABMは、特定のセグメント内の顧客にのみアプローチするマーケティング手法で、マーケティングテクノロジーの進化により普及が進んでいます。

GTM戦略の実行と改善
GTM戦略は策定したら終わりではありません。外部分析(環境、市場、競合)と内部分析(製品、リソース)を行い、優先セグメントやセールス&マーケティングのアプローチ・テーマを決定した後、各種プラン(アカウントプラン、テリトリープラン、マーケティングプランなど)を設計し、実行します。ここからが、セールス&マーケティングの活動の本番です。
定期的なミーティングによって、戦略の進捗を管理する「ケーデンス」を確立することも重要です。これにより、チーム全体にリズムが生まれ、データに基づいた改善が継続的に行われます。CRMを中心にしたオペレーションモデルの構築が重要になります。CRMは、オペレーションの世界では神です。
GTM戦略の成功は、製品開発からマーケティング、セールス、カスタマーサクセスまで、全社的な連携と、全体最適化の視点にかかっています。この戦略を「アート(Art)」と「サイエンス(Science)」、そして「クラフト(Craft)」の融合として捉え、データと経験に基づいたアプローチで、自社の市場での勝ち筋を築き上げていきましょう。
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AI inside株式会社 執行役員 CPO、マイクロソフト株式会社 業務執行役員、シスコシステムズ合同会社 マーケティング本部長など、外資系企業を中心にキャリアを積み、独立後はIT/SaaS/AI企業におけるGTM戦略の立案、マーケティング・セールスプロセスの構築、およびパイプライン作成を主に支援。
Great Place To Workのプロジェクトをリードするなど、企業文化の構築にも関与し、現在はマイナビニュース Tech+にてスキル・キャリアに関する連載を執筆中。
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