COLUMNタクウィルコラム

労務管理とは?業務内容と注意すべきポイント

 

近年、ブラック企業や長時間残業などが問題になっています。

また、フリーランスやリモートワークなど働き方が多様化する中、社員にとって働きやすい環境が整っているか、効率的に業務が行われているかなど、

社員の「労務管理」は重要な課題と言えます。

 

 

1.労務管理の業務内容

 

  1. 労務管理とは

労務管理の目的を一言でいうと、「人材の有効活用と組織の活性化」です。「生産性向上」「革新的な商品創出」「利益最大化」「社会貢献」など企業目標を達成するために、労働者にやる気を出して働いてもらうことを目的とした人材の活用を意味します。

 

☆労務管理と人事管理の違い

戦前の日本においてはホワイトカラーを対象とする「人事管理」とブルーカラーを対象とする「労務管理」は別個に扱われていました。

戦後はこのような区別がなくなり、近年は両者を合わせて「人事労務管理」と呼ぶのが一般的のようです。

 

 日本企業の人事労務管理は、高度経済成長期において日本経営の“三種の神器”(終身雇用、年功序列、企業別労働組合)を中心に、欧米諸国と比べ特異な発達を遂げてきました。

企業内教育(OJTなど)、手厚い福利厚生、健全な労使関係の維持はその名残です。

労務管理の業務範囲は、福利厚生、労働安全衛生、健康管理、労使関係(労働組合との折衝および調整)、更に、賃金システム・給与計算、勤怠管理、社会保険の手続き、そして、最近の重要労務マターである長時間労働対策やハラスメント問題への対応、個人情報管理など、広範囲に渡ります。

 一方、人事管理は、採用、育成、人事考課、異動・配置転換など、社員の雇用から解雇までの管理業務を行います。社員が高いパフォーマンスを発揮できるようサポートをすることで、企業活動を円滑に進めるための重要な役割を担っています。

このように、労務管理も人事管理も社員を対象とした業務を行うという意味では同じですが、人事管理は“社員個人”を対象としている一方で、労務管理は“組織全体”を対象としているという点で違いがあります。どちらの方が重要というものではなく、どちらも企業活動には欠かせないものだと言えます。

 

 

2)労務管理の業務内容

 

(1)勤怠管理(労働時間の管理)

勤怠管理とは、社員の出退勤時間、休憩時間、休暇の取得状況などを管理するものです。勤怠管理の方法は、タイムカードやICカードによる記録であったり、各自、社内のシステムに入力するものであったりと様々ですが、いわゆる「出勤簿」として、賃金台帳(賃金の支払記録)とともに適正に整備しておかなければなりません。

この勤怠管理は、給与計算や年次有給休暇の管理のためのものですが、各社員の労働時間を適正に把握し、長時間労働があれば是正する狙いもあります。残業が多い部署や社員については、健康管理の面や生産性向上の観点からも是正させる取り組みを実施していかなければなりません。

(2)給与の管理

各社員の給与については、前述の勤怠管理データに基づいて算出し、賞与については、会社の業績や人事考課などを踏まえ、定められた基準により算出していくことになります。

給与算出

給与の算出は、基本的には給与算定期間の勤怠管理データに基づいて行います。時間外労働、休日労働、深夜労働があれば、割増賃金の計算が必要になりますし、遅刻や早退、欠勤があれば、その時間・日数分の賃金控除が必要になる場合(日給月給制の場合など)もあります。また、4月や10月には定期昇給や人事考課などを反映させた給与改定が実施されることもありますので、漏れのないように十分注意しなければなりません。

賞与算出

 賞与の算出は、就業規則や賞与規程、人事考課規程などに定められた基準により行います。

一般的には、会社の業績を踏まえて賞与支給可能額が決定され、その後、各社員への配分について、一定の計算式により人事考課結果や部署毎の成績などを反映させていくことになります。

(3)就業規則の管理

 労働条件通知書に記載された労働条件は社員個別のものであるのに対し、就業規則やその他の社内規程は、全社員に共通する労働条件を定めたものです。

  1. 就業規則等の作成・届出

就業規則は、労働基準法により、常時10人以上の社員がいる企業の場合に作成しなければなりませんが、就業時間、休憩時間など必ず記載しなければならない事項が予め定められているため、その整理に沿った作成が必要です。また、労働組合(労働組合がなければ社員の過半数を代表する者)の意見を聞いた上で労働基準監督書に届け出なければなりません。

就業規則等の変更

就業規則やその他の社内規程についても、会社の実態に合わせて変更しなければならないことや法改正に合わせた変更が必要になることがあります。

就業規則等を変更する場合の注意点としては、賃金の減額につながるような不利益変更は社員の合意が必要になります。例外として、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、その変更の必要性や合理的な理由(会社に経営上の危機が差し迫っているなど)がある場合には、社員の同意を得なくても認められる可能性もありますが、十分な配慮が必要です。

就業規則等の周知

就業規則等を新たに作成あるいは変更した場合には、社員へ周知徹底しなければなりません。周知の方法は、各社員に書面で配布する、職場の見やすいところに掲示したり、ネット上で情報として確認できるようにするなどです。

なお、社員の採用時にもその時点での就業規則などについて、個別の労働条件とは別に説明が必要です。

(4)社会保険・労務保険の手続き

 社会保険には、健康保険や介護保険、厚生年金保険があり、労働保険には、雇用保険や労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)があります。

社員の採用時やその他該当のある時に届け出、申請の手続きが必要になります。

  1. 社会保険の手続き

社会保険は、採用する社員の所定労働時間/週および所定労働日数/月が、通常の社員(正社員)と比べて3/4以上でなければならないなどの加入要件がありますが、それを満たしている社員である場合には、雇い入れた日から5日以内に管轄の年金事務所(会社によっては健康保険組合)に届け出なければなりません。

この届け出により、健康保険と厚生年金保険の加入手続きが完了。その後は、社員の給与額により各保険料を算出し、給与から控除していきます。

なお、採用に伴う届け出以外にも社員の扶養家族、住所・氏名に変更があった場合、また、出産した場合や産前産後休業、育児休業を取得した場合、退職した場合にも年金事務所に届け出が必要になります。

労務保険の手続き

雇用保険についても、採用する社員の所定労働時間/週が20時間以上でなければならないなどの加入要件がありますが、それを満たしている社員である場合には、雇い入れた月の翌月10日までに管轄のハローワークに届け出なければなりません。この届け出により、雇用保険の加入手続きが完了。その後は、社員の給与額により雇用保険料を算出し、給与から控除していきます。

なお、採用に伴う届け出以外にも社員の氏名に変更があった場合、また、育児休業を取得した場合や退職した場合にもハローワークに届け出が必要になります。

労災保険については、保険料を全額会社で負担しますので採用に伴う手続きはありませんが、業務中や通勤途中に怪我をした場合などには、療養や休業のための給付を受けるために労働基準監督署に届け出が必要になります。

(5)その他

健康管理

社員の健康管理は会社(経営者)の義務でもあり、生産性の向上にも繋がります。法的な実施義務があるものとしては、健康診断やメンタルヘルスケアの実施、また、過重労働者に対する医師による面接指導などが挙げられます。

メンタルヘルスケア対策

会社は、健康診断だけでなく、社員のストレスチェックや面接指導も実施しなければなりません。これは、ストレスの蓄積がうつ病などのメンタルヘルスの不調へとつながる可能性があるとして、平成27年12月に改正施行された労働安全衛生法により義務付けられたものです。(社員50人未満の事業場では当分の間は努力義務)

対象となる社員は、原則として健康診断と同様で、毎年1回、ストレスチェックを実施し、その報告書を労働基準監督署へ提出しなければなりません。

長時間労働への面接指導

会社は、一定の労働時間を超える社員に対して、医師による面接指導を実施、あるいは、医師による面接指導またはそれに準ずる措置(保健師による保健指導など)を実施するように努めなければなりません。(社員50人未満の事業場では平成20年4月1日から適用)

月100時間を超える時間外・休日労働があり、疲労の蓄積が認められる社員から申し出があった場合には必ず面接指導を実施しなければならず、月80時間を超える時間外・休日労働があり、疲労の蓄積が認められる社員から申し出があった場合や、その他会社独自で定めた基準に該当する場合には、面接指導またはそれに準ずる措置(保健師による保健指導など)を実施するように努めなければなりません。

その後、会社は医師から意見を聴取し、該当労働者の就業場所や担当業務の変更などの事後措置を講じることが求められます。

職場環境の改善

生産性の向上を図るためには、社員が働きやすい職場環境にしていく必要があります。これには様々な取り組みが考えられますが、主なものとしては、残業時間の削減、年次有給休暇の取得促進、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントの防止などが挙げられます。

<年次有給休暇の取得推進>

残業時間の削減とあわせて実施すべきことが、年次有給休暇の取得促進です。社員に休暇を取得させることは、心身の疲労を回復させるだけでなく、生産性の向上にも繋がります。

<セクシャルハラスメントの防止>

会社は、雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律(いわゆる「男女雇用機会均等法」)により、社員がセクハラにより不利益を受けることがないよう社員からの相談に応じ、適切な措置を講じなければなりません。

具体的には、就業規則への適用、社内報・社内HPへの記載、研修・講習実施などが挙げられます。

<パワーハラスメントの防止>

パワーハラスメントは、前述のセクシャルハラスメントやマタニティーハラスメントよりもその定義付けが難しいものであり、会社に防止対策を義務付ける指針などはありません。

しかしながら、そもそも、加害者は名誉棄損罪や侮辱罪(刑法)に問われる可能性がありますし、会社としても加害者の使用者責任(民法)を問われる可能性もあります。

セクシャルハラスメントやマタニティーハラスメントなどと同様に相談窓口を設置し、同様の対応を行うことが望まれます。

2.労務管理で注意すべきポイント

労務管理の目的には、職場環境の改善なども含まれますが、実際に携わる立場になると、どうしても経営者や役員が決めたルールをただ社内に周知し、実践するだけの役回りになってしまう場合があります。

経営者や役員が全社員の意見を吸い上げる意識を持っていればよいですが、そうでない場合には、自身が全社員を代表して、経営陣とのパイプ役であることを意識し、正しい意見は積極的に吸い上げて経営陣に報告、相談することが重要になってきます。

1)就業規則の最適化

一般的には、就業規則は経営者と外部の労働専門家(社労士など)が作成しますが、最近注目されているのが、「社員参加型就業規則プロジェクト」です。みんなでつくる就業規則は、社員に“全社の調和(全体最適化)“を体得してもらうプロジェクトでもあります。

企業の理念体系(ミッション、ビジョン、バリュー)を基に、経営目標の実現や問題解決に向けて、共に協力し合うパートナー(経営者と社員)として、新たな就業規則を作成します。

2)法制度の変化への対応…各種法令への理解

労務管理業務の多くは、基本的に労働基準法やその他の法令に基づくものであるため、専門家とまではいかないまでも、十分な理解が求められます。

また、就業規則や社内の各種規程、社員の労働条件などは、法改正により変更を求められることがありますので、日々、法改正の動向にも留意しておかなければなりません。

3)個人情報など情報管理の徹底

労務管理業務の多くは、各社員の賃金その他の労働条件やマイナンバーなど、個人情報に関係するものであるため、その管理については細心の注意を払う必要があります。また、業務を離れたところでの個人情報に関する不用意な発言や自宅へのデータの持ち帰りなども、個人情報流失につながる危険性があるため厳禁です。

4)業務効率化・生産性向上

外部への業務委託や労働管理サービスの活用

社会保険関係の届け出や就業規則の作成・変更、また、給与計算などについては、社会保険労務士事務所に委託することが一般的です。給与計算については、税理士事務所や会計事務所、その他の給与計算サービス会社でも可能です。

これにより、業務負担の軽減を図ることができますが、当然費用が発生しますので、費用対効果を勘案の上で導入検討すべきでしょう。

システム・ソフトウェアの導入

専門家に委託しないまでも、社会保険関係の届出システムや人事管理や就業管理、給与計算に関するソフトウェアを導入することで、業務負担の軽減を図ることもできます。

社会保険関係の届出システムを導入すると、電子申請を簡単に利用でき、上記ソフトウェアを導入すれば、労働条件の管理、勤怠管理、給与計算は大幅に作業量を減らすことができますが、こちらも費用対効果の検証が必要です。

5)労務管理に関する資格と検定

 労務管理業務を遂行していく上で、取得しておいた方が良い資格がいくつかあります。

衛生管理者

 「衛生管理者」とは、労働条件や労働環境の衛生的改善など、会社の衛生全般の管理を担う国家資格です。労働安全衛生法により、常時50人以上の社員がいる事業場では、この衛生管理者の選任が義務付けられています。

過労死や残業未払い問題などの影響もあり、社会的なニーズも高まっており、労務管理担当としては、取得が求められる機会が多い資格です。

社会保険労務士

 「社会保険労務士」(国家試験)資格を取得することによる最大のメリットは、試験合格後、各都道府県の社会保険労務士会に入会・登録することで、労働および社会保険に関する法令に基づく書類の作成や提出を代行できる、あるいは、各種相談に応じて指導できるようになることです。社内の社会保険関係の届け出や給与計算をしている限りにおいては、手続き的なメリットはありませんが、社内にこの資格保有者がいることで、労務管理業務の安定化、効率化が期待できます。

他に、ビジネスキャリア検定試験、メンタルヘルス・マネジメント検定試験、マイナンバー実務試験検定などがあり、労務管理者は対象となる各業務分野の知識と理解を深めるためにも資格取得しておいたほうがよいでしょう。

3.まとめ

労務管理は人事管理と一体化することで、生産性向上や業務リスクの回避・軽減につながります。労務管理業務の多くは、労働基準法などの法令に基づくものであるため、十分な理解が必要であり、個人情報の取り扱いにも細心の注意を払って対応すべきです。

また、労務管理業務は、すべてを社内リソースで賄うことは難しいため、一部の業務を社会保険労務士事務所などに業務委託したり、関連するシステムやソフトウェアなどを導入することも考慮すべきです。労務管理担当者の人数やスキルを考え、自社に最適な労務管理体制を構築できれば、より社員が幸せに働け、生産性の高い企業に生まれ変わることができるでしょう。


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